開発経緯

地域と林業をつなぐICT革新
北原社長が語るSoko-co Forestの開発背景インタビュー記事

(株)BREAKTHROUGHは、林業界の課題解決に取り組むシステム開発会社です。北原社長はもともとフリーランスのプログラマーでしたが、北海道への地域貢献をしたいという想いから林業とICTの融合を目指しました。

私は札幌でフリーランスのプログラマーをしていましたが、東京圏の仕事ばかりで北海道に貢献できていないと感じていました。そこで、林業とICTを組み合わせたボランティア活動をはじめたのです。

ボランティア活動をきっかけに、北原社長は全国の林業関係者とのネットワークを築きました。林業現場の課題を直接見聞きし、ICTによる解決策を模索するなかで(株)BREAKTHROUGHの設立に至ります。

どのようなシステムを開発するか検討するため、全国の林業者に会いに行く旅をしていました。そのなかで、林業者たちから「こんな機能があったらいいね」という声を聞き、機能をひとつずつ積み上げていったのです。

会社設立後も試行錯誤は続き、製品開発には多くの困難がありました。しかし、林業界の支援者や協力者に恵まれ、現在のSoko-co Forest(ソココ・フォレスト)2.0の開発に至りました。Soko-co Forestは、林業現場の安全性向上と作業効率化を実現するICTソリューションです。

Soko-co Forestは、「スマートフォン3台」「トランシーバー3台」「充電器」などをセットにして販売しています。ソフトウェアは弊社が開発し、ハードウェアは株式会社JVCケンウッド製です。

Soko-co Forestの主な機能は、以下のとおりです。
  • 携帯電話圏外の森林内でも約3kmの通信が可能
  • カスタムマップの作成と地点登録の共有
  • グループメンバーの位置情報共有と接近通知
  • 行動軌跡の記録と表示
  • オフライン地図表示
  • テキストメッセージの送信
  • 危険エリアアラート機能
  • KMLデータのインポート・エクスポート
  • ビデオ&音声通話(オンライン時のみ)

林業の現場は、電波の届きにくい場所が多いです。そこで、トランシーバーのデジタル簡易無線を活用し、電波圏外でも通信できるようにしました。また、作業者の誰かが電波圏内に復帰すれば、全員分の情報をサーバーに送信する仕組みを構築しました。

サーバーに送信された情報は、リアルタイムで事務所から確認できる仕組みです。Soko-co Forestにより、林業従事者の安全確保や作業効率の向上が期待できます。また、将来的には素材生産情報の管理やトレーサビリティの確立も視野に入れています。

開発の経緯と背景

林業界は現在、深刻ないくつもの課題に直面しています。たとえば、労働災害の多発と作業者不足が、業界の持続可能性を大きく脅かしています。

林業界は労働災害が多く、森林作業者の数も少ない状況です。現状を改善するための手段のひとつとして、Soko-co Forestを開発しました。

林業の労働災害発生率は非常に高く、林野庁の統計によれば2022年は全産業平均の約10倍である23.5%という状況です。広大な森林での作業はつねに危険と隣り合わせであり、安全管理の徹底が急務となっています。

また、若者の林業離れによる作業者不足が進み、技術の継承も難しくなっています。作業者の高齢化も相まって、業界全体の活力低下を懸念する声も少なくありません。さらに、広大な森林内で安全確保のために必要な作業者の位置把握が困難な点も問題です。

紙ベースでの情報管理も効率化の妨げとなっており、デジタル化の遅れが生産性向上の障壁となっていました。くわえて、日本の豊富な森林資源が十分に活用されていない現状もあります。

(株)BREAKTHROUGHの設立は、もともと北原社長のボランティア活動がきっかけでした。地域貢献への想いからはじまった活動が、林業界に存在する課題の解決に特化した企業の誕生につながったのです。

札幌のプログラマー仲間と、農林水産業とICTを組み合わせたボランティア活動を企画しました。そのなかで、林業分野が面白いと感じたのです。

ボランティア活動では、林業現場へのバスツアー開催やIT業者と林業者の交流会を実施しました。また、林業の課題についてディスカッションし、解決策のプロトタイプ開発の取り組みも積極的に行いました。

多くのボランティア活動を通じて、北原社長は林業界の実態と課題を深く理解します。同時に、ICTによって林業のさまざまな課題を解決する可能性も見出しました。

ボランティアだけでは、現場の方々に価値を提供できないと気づきました。そこで、思い切って起業したのです。2010年代後半時点では、林業はICTといってもなんのことかわからないような世界でした。そういった状況のなか、林業界に私が外野から参入したという経緯があります。

起業後も全国の林業関係者とのネットワークを活かし、現場のニーズを丁寧に拾い上げていきました。北原社長の林業に向き合う真摯な姿勢が、実用的なソリューション開発につながったのです。

さらに、北原社長自身もSoko-co Forestを開発するために林業の実務を学びました。

林業者になる講習会を受け、苗木の植え付けや枝打ちなどの体験をしました。また、開発の中で社会人大学院生として鹿児島大学に入学して林業の知識も身に付け、林業界をある程度は知った人間として、Soko-co Forestを作っています。

林業の経験とIT技術の両方に精通した北原社長により、Soko-co Forestは開発されました。北原社長の取り組みは、現場を知るITエンジニアだからこそ実現できた革新的なソリューションだと評価されています。

Soko-co Forestの開発過程は、林業現場の通信の課題を解決するための技術探求の歴史でもあります。北原社長は、より効果的な通信手段を求めて複数の技術を試行錯誤しました。

2016年には、Bluetoothだけでスマートフォンを使って山のなかで通信しようとしていました。しかし、現場の方から「100メートルなら声を出せばいい」と一蹴された経緯があります。

2016年から現在に至る技術の遷移は、以下の表のとおりです。なお、現在のSoko-co Forestの形になるまでにかけた開発費用は、ハードウェアを含む試作開発なども含めると数千万円規模になってしまったといいます。

技術 特徴1 特徴2
Bluetooth(2016年) 通信距離が短い 現場のニーズに合わない
LPWA(Low Power Wide Area)(2018年ごろ) 平地では500メートルの通信が可能 森林内では短距離しか通信できない
920MHz帯LPWA 一定の成果を得る 設置コストと手間が高い
デジタル簡易無線(2024年現在) 既存のインフラを活用 低コストで広範囲をカバー

LPWAの時代には7メートルもの高さのアンテナを立てたり、中継器を設置したりしました。しかし、設置のハードルとコスト面の問題が大きかったのです。

最終的にデジタル簡易無線とスマートフォンの組み合わせによって、現在のSoko-co Forestの形にたどり着きました。この方式により、低コストで広範囲の通信が可能となり、ユーザーの利便性も大きく向上しました。

 

デジタル簡易無線を使った林業のソリューションは、現状ではほかにありません。他社が開発していない製品になり、販売は株式会社JVCケンウッド様が引き受けてくださっております。

Soko-co Forestの技術の変遷は、北原社長の粘り強さと林業への深い理解を示しています。失敗を恐れずつねに現場のニーズに応えようとする姿勢が、独自のソリューション開発につながったといえるでしょう。

開発者の想いと社会的意義

北原社長はICTを活用した課題解決を通じ、生産性向上・安全の確保・若手の育成・林業の活性化を実現したいと考えています。インタビューでとくに印象に残ったのは、北原社長が個人の利益よりも公益を追求する姿勢でした。

私の考えているのは弊社の製品だけでなく、いろんな会社がさまざまな製品を作る未来です。「林業界全体を変えていく」というマインドを、社会全体で醸成できるような形で進めていきたいのです。

日本は、国土面積に占める森林の割合が7割もあり世界有数の森林国です。そのため、北原社長はICTを活用した効率的な資源の活用を、林業界全体を巻き込んで目指しています。

これまでの林業界にはICTが普及しておらず、参入しようとする企業もほぼありませんでした。世界有数の森林資源を抱えながら、林業は緩やかな斜陽産業としてとらえられていたのです。だからこそ、北原社長は危機感を持って林業の現状を変えたいと話します。

私は当時、まったく林業と関係のない状態で、IT業界から林業界に飛び込んだ珍しいタイプの人間らしいのです。いまでは、ほかの会社もたくさん参入してきています。

北原社長の挑戦は、林業界にICT化という新たな視点をもたらしました。その結果、業界の課題解決に向けた新しいアプローチが生まれ、他社も参入するなど林業の未来に希望をもたらしています。

また、Soko-co Forestの開発には、多くの支援者の協力がありました。北原社長は、支援してくれた方々への感謝の気持ちをインタビュー時に語ってくれました。

さまざまな事情により、もう恩返しをするにもできない方たちがたくさんいるのです。Soko-co Forestを形にしなければ支援していただいた方たちの想いが残らないと考え、何とか現在の状態にまでたどり着きました。

個人の利益よりも社会貢献を重視する北原社長の姿勢は、製品開発や事業展開にも反映されています。

私は、単純にSoko-co Forestで儲けたいわけではありません。多くの人たちの応援があり作り上げたSoko-co Forestは、世の中に役立ててもらわなければ意味がないのです。

また、北原社長は製品開発だけでなく林業界の若手の育成にも力を入れています。

鹿児島研究開発室として拠点を作りました。大学生たちに開発経験や知見を教えて、どんどん育ってくれた方が私としてはありがたいのです。その先に林業の活性化や未来が開けるわけですから。

Soko-co Forestの特徴と機能

Soko-co Forestは、スマートフォンとトランシーバーのBluetooth接続によりデータ通信を行います。トランシーバー同士はデジタル簡易無線で通信するため、森林内でも長距離での情報交換が可能です。

Soko-co Forestは、電波圏外でも作業者の位置情報や状況を把握できるのが最大の特徴です。誰かが電波圏内に入ると全員分の情報がサーバーに送信されるため、事務所にいながら現場の状況をリアルタイムで確認できます。

そのため、万が一の事故や怪我の際にも迅速に現場に駆けつけられます。林業における労働災害のリスク軽減に大きく寄与する機能といえるでしょう。

位置情報の共有は単なる監視ではなく、作業の効率化と安全性の向上を両立させるツールとして機能します。経営者と現場作業者の双方に安心をもたらし、林業の生産性向上に大きく貢献するのがSoko-co Forestのメリットです。

Soko-co Forestを導入すれば、いまどこで誰が何をしているかがわかります。経営者側も不安がなくなるのです。

さらに、オフライン時にも各端末でデータが蓄積され、電波圏内に入った際に自動的に同期できるのが特徴です。Soko-co Forest独自の仕組みにより、常時接続が困難な山間部でも作業者の状況や位置情報を把握し続けられます。

また、Soko-co Forestは、林業特有のニーズに応えるカスタムマップ機能を備えています。一般的な住所表記とは異なる林業の世界に対応するため、独自の地図情報を提供しているのが特徴です。

林業の世界は住所の表記が一般と異なります。たとえば、「◯林班の◯小班」という形式です。そのため、林業用の地図情報が必要になるのです。

林班と小班の概要について、以下の表にわかりやすくまとめました。

区分 定義 面積 目的 役割
林班 森林管理の基本単位 数十ヘクタールから数百ヘクタール 森林全体の管理計画 森林資源の計画的利用・成長と健康の監視・大規模な作業の計画
小班 林班内の細かい区画 数ヘクタールから十数ヘクタール 詳細な管理と作業 個別作業の具体的実施・植生管理と間伐作業・詳細な資源評価

カスタムマップは林小班の境界表示だけではなく、航空レーザーデータを活用した詳細な地形表示や高低差情報の提供により、作業現場の状況を視覚的に把握できます。地表面の凹凸や傾斜といった情報は、作業計画を立てる上で非常に重要です。

くわえて、各現場のニーズに合わせたカスタマイズで、作業者は正確な位置把握と効率的な移動が可能です。林業の特殊性を理解した上で開発されたカスタムマップは、現場のニーズに寄り添ったソリューションとして高く評価されています。

市場展開と今後の展望

現在、Soko-co Forestは株式会社JVCケンウッド様との提携により、「販売網を活用し」「認知度向上」「信頼性の確保」を実現しています。

株式会社JVCケンウッド様が販売してくださるのは非常にありがたいです。大手企業が販売してくれると、幅広いブランド力により商品を知ってもらえるのです。

同社のブランド力は、新規顧客の獲得に大きく貢献しています。また、大手企業が取り扱うため、製品の信頼性が担保される点も大きなメリットです。

一方で、他企業との提携には課題も存在します。

企業間の連携となるため、私のほうからも林業についての知見を提供するなど、協業について足並みをそろえるための準備が必要でした。

上記の課題に対し、(株)BREAKTHROUGHは製品理解促進のための情報発信を強化しています。自社のWebサイトで詳細な製品情報を提供し、顧客の理解を深める取り組みをはじめました。また、オウンドメディアも検討しており、大手との提携を最大限に活かしつつ自社の強みを活かした販売戦略を模索しています。

将来を見据えてSoko-co Forestは、現場のニーズに応える新機能の開発を積極的に進めています。とくに注力しているのが、画像伝送機能と事務所との連携強化です。

将来的には画像の伝送や危険なときに事務所でパトランプを光らせるなど、事務所側との連携をさらに強化したいと考えています。

画像伝送機能を実現すれば、現場状況の視覚的な共有が可能となり遠隔での作業指示がより正確に行えます。リアルタイムアラート機能が組み込めれば、緊急時に事務所側で即座に状況を把握して迅速な対応体制を整えられるでしょう。

さらに、素材生産情報の管理機能があれば、丸太の位置情報や生産量のリアルタイム把握で効率的な木材管理が可能です。

丸太のトレーサビリティはかなり重要です。生産性向上以外に、違法伐採の防止や産地証明にも役立ちます。

現場のニーズに応え、Soko-co Forestはより実用的で価値あるソリューションへと進化を続けています。

課題と将来のビジョン

(株)BREAKTHROUGHはSoko-co Forestの成功を基盤に、さらなる社会貢献を目指しています。しかし、すべてが順風満帆というわけではなく、多様な課題が山積しているのも事実です。

たとえば、Soko-co Forestの価格設定と販売戦略には、いくつかの課題が存在しています。とくに、売価と顧客のイメージしているコストとの乖離が、誤解を招く可能性を北原社長は懸念しています。

大量に導入できるのであれば売価をさらに抑えられますが、現状は年に数件程度なので、どうしても価格は上がってしまいます。

また、インタビューでは、現在の価格は以前と比較すると下がっているとも言及しています。

LPWA技術を使用していた時代を知る人からは、現在の価格が大幅に下がったと評価されるケースが多いです。LPWA時代には製品を300万円程度で販売していましたが、現在は200万円台まで価格が下がっています。そのため、過去の価格を知る人々からは、製品が安くなったと認識されているのです。

価格の課題に対し、(株)BREAKTHROUGHは企業理念の明確な発信に注力しています。社会貢献のため、可能な限り低価格で多くの人にSoko-co Forestを提供する理念を伝える活動を行っています。

また、自社のコスト削減により、可能な限り価格を抑えているのが現状です。さらに、導入時の負担を軽減するため、補助金やリース契約の活用を顧客におすすめしています。さまざまな自社努力を通じて価格に対する顧客の理解を深め、導入するハードルの低下を目指しているのが現状です。

Soko-co Forestの技術は、林業以外の分野への応用も大きな可能性を秘めています。

たとえば、建設業や防災関係など、いろんなところから引き合いが来ています。そのため、実は裏でSoko-co Forestの再開発を進めているのです。

建設業では広大な現場での作業者の位置把握や緊急時の対応に、Soko-co Forestの技術を活用できる可能性があります。防災・災害対策分野では、電波の届きにくい被災地での通信手段として期待されています。また、救助隊の位置情報共有や被災状況の迅速な把握に役立つと考えられているそうです。

農業分野では、「作業管理や生産物のトレーサビリティ」「中山間地域の農業支援ツール」などで活用できるかもしれません。ほかにも、山岳地帯の観光地では安全管理ツールとしての需要が見込まれます。

北原社長は、自社の発展だけでなく林業界全体の底上げを目指しています。

より多くの企業が、林業界に参入して頂ければと思っています。そのなかでさらに優れたものを作り、すべての関係者が現場に還元できるシステムを積極的に開発していければと思います。

さらに、北原社長は製品開発と並行して若手の育成にも注力しています。若手の育成は、林業界の未来を見据えた長期的な視点に基づいています。

大学生との連携による人材育成は、(株)BREAKTHROUGHの重要なテーマのひとつです。林業とICTの両方に精通した人材を育て、業界の技術革新を加速させるのが目的のひとつです。くわえて、各地で呼ばれた講習会などのイベントで、製品の魅力の他にも課題を共有するといった取り組みも行っています。

(株)BREAKTHROUGHは林業界の未来を担う人材を育成し、持続可能な森林管理と地域活性化を目指しています。技術革新と人材育成を両輪とし、林業界全体の活性化を実現するのが北原社長のビジョンです。Soko-co Forestはビジョンの実現に向けた重要なツールであり、今後も進化を続けていくことが期待されています。

インタビューを通じて日本の未来を考えよう

北原社長の挑戦は、日本の林業界に新たな可能性をもたらしています。技術革新と社会貢献の両立を目指す姿勢は、他産業にも示唆を与える先進的なモデルです。個の利益よりも社会の発展を重視するオープンな姿勢は、日本が直面する多くの課題解決のヒントとなるでしょう。

北原社長の「もっと多くの会社が林業界に参入して競争しましょう」という言葉は、日本の産業界に新しい風を吹き込むかもしれません。いままで成長産業としてとらえられてこなかった林業ですが、ICTの活用で活性化する可能性は大いにあります。

日本の未来は、北原社長のような先駆者たちの挑戦によって切り開かれていくのです。また、北原社長の挑戦に多くの人が協力し、困難な課題に立ち向かってきた歴史も決して忘れるべきではないでしょう。

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